とりあえずかいてみよう

読書とか映画とか音楽のことを書きます。書かない日もあります。でも書こうと思ってます。

ふり幅の大きさ デイヴィッド・ロッジ『ベイツ教授の受難』

 

ベイツ教授の受難

ベイツ教授の受難

 

 難聴の言語学者ベイツ教授とその周辺での日常・事件をこまごと描いたキャンパスノベル。

作者の著書で既読なのは『小説の技巧』のみだった。二冊目のこちらを読み終えた感想は、なるほどさすがに実作も技巧的なものよ、というところ。

装飾過多な文体と虚構性の強いプロット・人物造形であるが、「老い」と「死」という誰もが逃れえぬ運命をテーマにしているため、否応の無いリアリティが醸し出されているのも事実。そのふり幅の大きさこそが、この作品の魅力だと思った。

しかし、帯に「抱腹絶倒のコミックノベル」みたいな言葉があるが、この内容で爆笑できるのは世俗を超越した仙人く らいのはずである。平凡な一読者としては「笑ってよい物やら」戸惑う他ない場面が目立つ。

その戸惑いも含めて、人生とはままならないという悲哀とペーソスを感じることが、「老い」や「死」を深刻な社会問題として捉えねばならない現代社会を照ら すほのかな明かりなのではないか、みたいに思ったりする。まずは非常に満足のいく内容でした。ロッジは積読ばかりなのだが、これを機会にその山を崩してい こうと思います。