再読。Pマクの処女作で、シリーズ探偵ゲスリン大佐のデビュー作でもあるため、冒頭で大佐の経歴が語られる。戦争後遺症に悩みつつ遺産・年金で優雅に暮らす、という設定が如何にも「らしい」のだけど、いま一つ魅力に欠ける。
ミステリとしては、クイーン登場以前ということから考えても極めてロジカルでフェア プレイに徹している点は、やはり評価すべき。しかし他愛もない恋愛沙汰を三つも絡めてくるのはキツイ。ロマンス要素が娯楽小説にとって不可欠であった時代と、本格謎解き長編が全盛を迎え始める時代の、過渡期の産物ということでしょう。
Pマクはこの20年くらいの間にずいぶん紹介が進んだ作家の一人だけど、それでもやっぱりベストは30年以上前に訳された本作だと思う。論創で最近邦訳の出た『狂った殺人』が気になるので、近々読む予定。
そうそう、本書の最大の売りは、巻末の小林晋氏による詳細な解説でありましょう。中島河太郎的な書誌学的解説から一歩も二歩も進化した、英米探偵小説史全 体の中で一人の作家をとらえなおし、全体像を評価するという内容は、今読んでもお見事です。
というかこの解説なかりせば、その後国書や原書房、論創からP マクの翻訳が出るということもなかったんじゃあるまいか。
ちなみに本作は昨年、新カバーで復刊されました。