とりあえずかいてみよう

読書とか映画とか音楽のことを書きます。書かない日もあります。でも書こうと思ってます。

『悪党どものお楽しみ』

 

悪党どものお楽しみ (ちくま文庫)

悪党どものお楽しみ (ちくま文庫)

 

 国書版以来の再読。今回は文庫化特典として、国書版には収録されていなかった短編の新訳版が掲載されている。引退した賭博師がその経験を生かし、毎回イカサマ師の弄するトリックを暴いていく、というのが基本フォーマット。しかし各話ごとにプロットに一ひねりが加えられており、予定調和な内容になっていない。そういう意味ではやはり「アカニレの皮」が白眉。すべての発端となる「シンボル」から、絶妙な余韻を残す「エピローグ」まで、卓越した構成力にはひたすら感心する他ない。「珠玉の短編集」という言葉がふさわしい、稀有な書物の一冊。

『検死審問ふたたび』

 

検死審問ふたたび (創元推理文庫)

検死審問ふたたび (創元推理文庫)

 

 再読。個人的には前作よりこちらを推す。というのはメインの語り手が、前作で狂言回しとして大活躍したイングリスとなっているからだ。作者も彼のキャラに手ごたえを感じたのだろう。真相は前作に比べてもかなり見抜きやすいが、それを上回る笑いの場面の連続がますます、コメディとしての純粋さを際立たせてくる。返す返すも、これっきりでシリーズが途絶えたのが残念でならない。邦訳は日本独自の解釈だが、これで正解でしょう。

『検死審問―インクエスト』

検死審問―インクエスト (創元推理文庫)

検死審問―インクエスト (創元推理文庫)

 

別冊宝石版、本文庫刊行版以来の三度目の読書。仙台読書会の課題図書。文句のつけようのない法廷ミステリの傑作であることは今さら指摘する必要もないが、読むたびに新しい発見があることにも気づく。周到に配置された登場人物と、彼らがちりばめる数々の伏線。それらはミステリとしての謎解き要素である以上に、シチュエーションコメディが成り立つための装置として奉仕しているのだと、今回改めて感じた。真犯人が妥当なのかどうかとか無粋なことは気にしてはならない。 

『熊と踊れ』上・下

 

熊と踊れ 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

熊と踊れ 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 
熊と踊れ(下)(ハヤカワ・ミステリ文庫)

熊と踊れ(下)(ハヤカワ・ミステリ文庫)

 

 ネタバレです。

スウェーデンで実際に発生した世間を震撼させた強盗事件をテーマにした内容で、作者の片割れトゥンベリは強盗犯の兄弟の一人だったというのが衝撃的。「事実は小説より奇なり」と手あかのついた言葉を持ち出すつもりはなく、誰よりも事実を間近で見た人間から得た情報を再構成しつつ、その中で「答えの出ない問い」を読者に叩きつけるルースルンドの筆力に、虚実皮膜の深奥を感じた。ドメスティックな暴力などのテーマは好みのタイプの内容ではなかったが、それだけに印象に残る作品だった。

『二月三十一日』

 

二月三十一日 (Hayakawa pocket mystery books (129))

二月三十一日 (Hayakawa pocket mystery books (129))

 

 再読。「探偵小説は犯罪小説に進化する」と唱えた作者シモンズ(本書ではサイモンズ表記)の第四長編で、邦訳としては初。自宅で妻を亡くした広告会社の重役の周辺で奇妙な出来事が頻発し、心理が異常な方向に傾いてい様を描く。

真相は「慄然」と「唖然」の中間に位置するもので、以降の作品よりも驚きが大きい。こういう作風のものが未訳で残っているなら読んでみたい。確か『自分を殺した男』の解説で何の警告もなしにネタバレされてるので気になるなら注意されたい。