とりあえずかいてみよう

読書とか映画とか音楽のことを書きます。書かない日もあります。でも書こうと思ってます。

これぞ作者の真骨頂! 若竹七海『さよならの手口』

 

さよならの手口 (文春文庫)

さよならの手口 (文春文庫)

 

『悪いうさぎ』以来13年ぶりの葉村晶シリーズ最新刊! いやはや、堪能いたしました。若竹七海という作家の個性があふれ出た、実に丁寧で贅沢な作りでして、解説で霜月蒼氏が指摘するように「ミステリの楽しみぜんぶ入り」の内容です。大筋となる失踪人探しから派生し様々な謎が生まれ、さらに絶妙にツイストの効いたサブプロットが終盤に恐るべき形で顔を表してきます。こちらの犯人像は非常に現代的で、かなりゾッとさせられました。メインの謎が解明された後の細々した伏線回収の手際もまた素晴らしい。地味な物語の中に滋味がある傑作です。

それにしても13年というブランクが葉村晶というキャラクターの成長と上手く重ねあわされており、そこがシリーズファンとしてはまた嬉しい。相変わらず不運すぎて笑ってしまいそうになりますが(失礼)、これからますます円熟味を増していく探偵となるであろうと信じ、この先の新刊刊行を待ちわびたいと思います。
さて今回は、今は亡き吉祥寺のミステリ専門書店TRICK+TRAPをモデルにしたMURDER BARE BOOKSHOPも登場し、東京創元社の前会長・戸川安宣氏をモデルにした店長富山も当然ながら登場。実際に店で何度もお目にかかったことのある身としては、富山の描写があまりにユーモラスで笑いが禁じえません。作中随所にあふれたマニアックなミステリ雑学も楽しめます。ハルの『伯母殺人事件』『伯母殺し』は、当然ながら私も両方のバージョンで持ってますw