物語 ストラスブールの歴史 - 国家の辺境、ヨーロッパの中核 (中公新書)
- 作者: 内田日出海
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2009/10/26
- メディア: 新書
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フランス北東部、ドイツとの国境に位置するライン河沿いの街ストラスブールは、その地理的要因から独仏両国の歴史の狭間で大きく揺れ動いてきた。日本ではドーデの「最後の授業」で有名な街でもあるが、実際のストラスブールの歴史はドーデが描くような単純なナショナリズム・国粋主義に還元されるものでないことが、この本を通じてよく理解できる。ストラスブール大学で歴史学の博士号を取った著者が指摘するように、ストラスブール人にとって反ドイツ的感情は、イコール親フランス的感情とはならないのだ(その逆もまた然り)。
そのアイデンティティは、神聖ローマ帝国時代に自由都市として、皇帝権力から自立し自治共和国として確かな基盤を持っていた経緯と、その時に築かれた自負に拠るものが大きいようだ。近世以後ストラスブールという都市を翻弄する主権国家というシステムに、市民は抵抗と信頼の二律背反に晒されるケースが、時代の局面ごとに現れる。現在はフランスに属するストラスブールであるが、EU成立後においては、かつて市民の間に存在した二律背反がむしろ欧州社会の先端をゆくメンタリティとなり得ているのかもしれない。