とりあえずかいてみよう

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あまりに悲しいと滑稽になる 『コンフィダント・絆』

コンフィダント・絆 (PARCO劇場DVD)

コンフィダント・絆 (PARCO劇場DVD)

 

2007年5月に渋谷PARCOで初演された舞台をDVD化したもの。私にとっては初めて生で観た三谷作品であり、個人的には現時点での三谷幸喜の最高傑作なんじゃないかと、今回このDVDを観て改めて思った次第。

19世紀末パリの、小さなアトリエを舞台に、当時まだ無名だったゴッホ(生瀬勝久)、ゴーギャン(寺脇康文)、スーラ(中井喜一)、そして彼ら の親友であるシュフネッケル(相島一之)が、ルイーズという美しい女性(堀内敬子)をモデルに招き、一ヶ月間彼女の絵を描き続ける。その間に起こる様々な 事件はやがて……。


テーマである「芸術家たちの間に真の友情は成り立つのか」という言葉は、物語を最後まで見終わると、ものすごい重みを感じさせてくれる。これま でも何人かの人には言ったが、従来の三谷作品のラスト、さんざん笑って最後にホロっと泣いて、最後の最後でまた笑う」というパターンから逸脱していて、そこが深く印象に残っている所以だろうかと思える。
生で観た舞台の感動を改めて思い出させてくれたこのDVDは、本当に買ってよかったと感じた。

ところでこのDVDに収録されている舞台は、DVD用に完全に客席から観客をシャットアウトした状態で録画されたものになっている。そのためカメラアングルも、通常の舞台ではあり得ないようなカットが多用されていて、それはそれで見応えあるんだけど、やはり観客の反応がないと寂しいような気もし て、あまりこの趣向は成功している、とは思えなかった。

思えなかったんだけど、特典映像に含まれている三谷幸喜のインタビューを聞いて、得心が行った。ここで三谷は「この4人の俳優だったら、観客の 反応に左右されない演技が可能である」と見定めて脚本を書いた、と語っている。その意図があればこそ、DVD用に別撮りした舞台が用意されたのだろう。

この三谷幸喜のインタビューは非常に聴き応えがあって、彼の脚本の作り方というのがパズルのピースをカチッカチッとはめ込んでいくように緻密で あることがよくわかる。彼がクリスティやコロンボなどを愛好したり、自身もミステリ的な題材をよく作品に取り入れたりすることなどにも納得がいく。
その中で最後に「この作品は純粋な喜劇ではなく、そのためラストも今までの自分の作品とは毛色が異なっている。それでいろんな批評家から「三谷幸喜が一つ進化した」と言われたけど、それは違う。あくまでこの作品のために変化しただけであって、これは別に自分の到達点じゃない」と言っていて、これ が非常に印象に残った。


この言葉は別に、自分が感じた「この作品は三谷幸喜の最高傑作である」という評価を覆すものではないけれど、観た者が感じるであろう疑問にここまで答えを用意できている三谷幸喜という人物は、やはりとても頭のよい人なのだなと感心した。
他にも、「あんまり悲しいと滑稽になる(あるいはまたその逆も)」という指摘は、良質なコメディの本質をついたものだろう。カズオ・イシグロの名作『日の名残り』に通じるものがある。