とりあえずかいてみよう

読書とか映画とか音楽のことを書きます。書かない日もあります。でも書こうと思ってます。

作者の確かな技量を偲ばせる佳作 陳舜臣『影は崩れた』

陳舜臣さん追悼読書。海外勤務から三年ぶりに日本に帰国した商社員の深尾は、その直前に社長の大平が所有する別荘で殺されていたことを知る。その別荘には、かつて深尾の恋人だった悠子が大平とともに暮らしていた。久しぶりの悠子との再会に情を覚える深尾は、そのまま大平の死の謎を探ることになるのだが……。

民間人の深尾が事件捜査に関わる流れが自然で上手い。深尾が知りえない事実は捜査中の刑事の視点から補足されるので、読者にとっては過不足なく情報が与えられることになる。錯綜した情報が徐々に収斂されていき、やがて明かされる真実は……。意外性という意味ではさほどの驚きはないが、ある小道具が極めて巧みに用いられていて、その使用法およびラストで明かされるタイトルの意味が重なる時、かなりのカタルシスが得られることだろう。

作品が描かれた時代背景のせいかどうにも地味で動きの無い話ではあるが、その分に作者の描写の上手さがよく感じ取られる佳作だったと思う。改めて、陳先生のご冥福をお祈りいたします。

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