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「美の追求」の果てにあるもの ドナルド・キーン『足利義政―日本美の発見』

足利義政―日本美の発見

足利義政―日本美の発見

 

日本文学の研究で高名な米国人の著者が、日本の美のあり方をひとりの人物―室町幕府第7代将軍・足利義政―の中から感じ取りつつ述懐するエッセイ。専門の歴史家のような堅苦しさは無く、また日本の生まれではない著者ならではの新鮮な視点が愉しめる。

著者によれば、義政は「美の発見者・創造者」ではなかったが、「美の判定者・審判」としては日本史上に冠絶する存在であった、ということになる。政治家としては無能極まりないことは間違いなく、彼の失政で苦しんだ民衆にとっては、美の判定者としての義政など何の価値も無かったであろう。

しかし現実に価値は無いからこそ、美は貴いのだという視点もある。一国の最高指導者が美に傾倒したことは、当時の日本を間違いなく混迷に落とし込んだはずだ。それでも義政が伝える美意識は、日本人にとってかけがえのない財産になっている。では義政は、一切現実を顧みることなく幸福な生涯を送ったのかというと、著者の描き方からはどうもそうとも感じられない。美の追求、つまりは求道というものが個人に幸せをもたらすものでは無いとすれば、義政の人生とは何だったのだろうか。ふと、そんなことを考える。