日本語文化圏における「名前」がテーマ。武家官位や氏・姓・苗字、女性名などの日本固有の問題から、外国人名表記、さらには匿名での発言など、話題は多岐 に上る。
しかもそれぞれの章立てにおいて、口述筆記なのかと疑うくらい、すぐに話題が横道にそれる。しかし確かな教養と知識に裏付けされた横道というの は、それはまた楽しいものであり、読みやすさという点では格別である。
なぜ「定子」「彰子」などの女性名が通例として音読みになっているか、についての考察は、非常に面白かった。ざっくり言って「近代の史学者に、読みの正確さの自信が無かった」ということなんだけど、それが普及した結果、現在では正しい読みとされている、という指摘に、皮肉を感じる。
他、洋の東西を問わず、近現代の人間は、自分の名前が唯一不変であることにこだわるようになったが、そういった意識はどの辺から芽生えるのか、みたいな視点も新鮮だった。
だが書籍としては非常に雑な作りをしている印象が強い。特に巻末の付録など、埋め草 程度の意味しかなかろう。まあ、これは著者よりも編集者に起因する問題だろうけど。