とりあえずかいてみよう

読書とか映画とか音楽のことを書きます。書かない日もあります。でも書こうと思ってます。

『アクロイド殺し』

 

アクロイド殺し (ハヤカワ・ミステリ文庫 1-45)

アクロイド殺し (ハヤカワ・ミステリ文庫 1-45)

 

読書会の課題図書。前回「名探偵とその忠実な語り手」という形式の短編集を取り上げた流れで、語り手が探偵に全く忠実でない長編作品を選んだ次第。犯人が探偵にしかける筈の罠が、作者が読者にしかけた罠へと位相する。

この正当化として「語り手の手記である」という事実が終盤で提示される。手記であるから許される恣意性(省略による隠匿)が、探偵と読者にとって公平な手がかりに位相する。

叙述トリックの先駆としては非常に考え抜かれた構造だ。客観性の保証の点で危うい部分は目立つが、それは後の叙述トリック発展へとつながることになる。

というわけで、フェアかアンフェアかを問われれば、私はフェアだと思います。かなりギリギリですが。危うい綱渡りを大胆に渡り切った、まさにミステリーの女王らしい作品。歴史に名を残すのは当然だと、改めて感じました。