とりあえずかいてみよう

読書とか映画とか音楽のことを書きます。書かない日もあります。でも書こうと思ってます。

『ラスキン・テラスの亡霊』

ラスキン・テラスの亡霊 (論創海外ミステリ)

ラスキン・テラスの亡霊 (論創海外ミステリ)

 

 一昨年、かのディヴァインを超えるという触れ込みで本邦初訳『リモート・コントロール』が上梓され一躍、翻訳ミステリ愛好家から高い評価を受けた作者の第三長編がこちら。円熟期の前者と比較するとやはり若書きのせいか、プロットがとっ散らかった印象はぬぐえない。しかし「死んだ女がばらまく悪意」により、限定された容疑者と謎を追う探偵役自身の心理が衝突することで、息詰まる様な尋問が連続する辺りは、極めてシリアスかつ重厚な構成である。その先にある真相は実に意外で、「亡霊」の正体に気づいた時に胸に迫るものは大きいだろう。

解決は決して関係者に平穏を生み出すわけではないため、言葉少ななラストの余韻を一層際立たせている。解説で指摘される、系譜として後のジル・マゴーンに連なる、という指摘には納得である。この作品から『リモート・コントロール』までの軌跡で、どのような成長を確認できるのか。中期作品の刊行も決定しているということで、お楽しみはまだまだこれから、といったところか。

以下は余談。解説でディヴァインの名前が今回も頻繁に出されるのだが、これはもうここで終わりにしてほしいなと。作風が似通っており、活躍年代も重なるのは分かる。『リモート・コントロール』の煽り文句が効果的だったのも認めよう。だからこそ、そろそろ単独で評価されてほしい作家だと感じる(むろん解説者には釈迦に説法だと思うが)。