とりあえずかいてみよう

読書とか映画とか音楽のことを書きます。書かない日もあります。でも書こうと思ってます。

『テロルとゴジラ』

テロルとゴジラ

テロルとゴジラ

 

書き下ろしである表題のテキストは、笠井ならではのパラノイアックな論理の堅牢性と、一転してアクロバティックな論理の飛躍のバランスが華麗に収まった内容で、たいへん読みごたえがある。

既に文壇で言及されなくなって久しい左派の小説家の作品論を通じ、日本の左翼がはらんでいた矛盾や、その矛盾ごと抑圧する「ニッポンイデオロギー」の存在を示したうえで、「戦没者の御霊」としてのゴジラが現代に復活した理由を解き明かす。「無能な中央」「有能な現場」という理解そのものが戦前や戦後に現れた失敗モデルの典型である、という指摘にも納得。

その他の収録評論も、SEALDSのデモ行動やシャルリ・エブド事件について、笠井らしい(古さも新しさも同居した、強固で頑迷な信条に基づく)論点が特徴となっている。全てを読み通したわけではないが、『国家民営化論』以来ひさしぶりに読んだ著者の社会評論だったので、その主張展開はなかなかに楽しめた。盛んに言及される自著『例外社会』も読もうと思う。