とりあえずかいてみよう

読書とか映画とか音楽のことを書きます。書かない日もあります。でも書こうと思ってます。

『著者略歴』

 

著者略歴 (ハヤカワ・ノヴェルズ)

著者略歴 (ハヤカワ・ノヴェルズ)

 

 作家志望のキャルは、法律家を目指すルームメイトが密かに書いた小説を読んで衝撃を受ける。それは明らかに自分をモデルにしていた。直後に事故死した彼に代りキャルはその小説を自作として世に問い、ベストセラー作家となるのだが……。

作者のデビュー作。全米に大激論を生じさせた『無実』ほどに人の心をえぐる様な深さと重さには欠けるが、犯罪心理小説としては十分読ませてくれる。流れるように展開していく物語と、結末で登場人物各々が下す選択は皮肉たっぷりで、米国より英国での評価が高かったというのも肯ける苦い後味が魅力の佳作だった。

米国出版界の内幕を描いたサクセスストーリーという一面もあり、結末も含めて何がどう転ぶかわからない辺りに、「物語」が消費されていく商業市場に生きる人たちのしぶとさ、したたかさを見て取ることもできる。そういう意味でキャラとして非常に興味深いのがキャルの出版エージェントであるブラッキーで、こういう人たちが実際にいるからこそ、アメリカの娯楽作品は(小説だけでなく映像の分野まで含めて)今なお、世界の先端を進んでいるのだろうなと思わせられる。

巻末の付録インタビューによると作者はもともとカナダ人で、ノンフィクション作家としてスタートしたという。この作品の背景そのものも実体験がかなり色濃く反映されているようだ。「書けない(書こうとしない)小説家志望の青年」の抱えるアンビバレンツに感じる生々しさも、その辺に由来するのかもしれない。敬愛する作家にキングスレイ・エイミスを上げているのがしみじみと納得できたり、このインタビューもなかなか読ませてくれた。