とりあえずかいてみよう

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デビュー作とは思えない巧みな構成と表現力 澤村伊智『ぼぎわんが、来る』

ぼぎわんが、来る

ぼぎわんが、来る

 

2015年の日本ホラー小説大賞受賞作。「ぼぎわん」と称される怪異の正体が、三人の視点を通じて明らかになっていく。
作者本人が認めるように多くのネタは既存の怪談を下敷きとしている。それが単なる継ぎはぎではなく、きめ細かなパッチワークに仕上がっているのは、作者の技量の賜物だろう。
特に第一部、第二部はネット上の怪談まとめサイトの常連なら「どこかで聞いた話」だと感じつつも、その構成の巧みさから上手さと怖さを覚えるはずだ。第三部は結末までテンポよく話が進み、娯楽作品としての後味もよい。世評の高さが納得の完成度でした。

以下、若干ネタバレにつき反転します。

第一部から第二部に移って明らかになる、夫婦間の意識の齟齬は(勘のいい人ならすぐに気づくだろうが)、2ちゃんねるの家庭板などでよく投稿される「自称イクメン」な旦那ネタを上手く物語に落とし込んでいて、こういうセンスも上手いなと思わされる。
さらに言えば第二部や第三部のラストで、その齟齬が単なる旦那批判に終わらずに、妻の自省と再生につながっていく、という流れも読んでいて心地がよい。デビュー作とは思えないくらい、娯楽のツボを抑えた作家さんだなと感じます。