とりあえずかいてみよう

読書とか映画とか音楽のことを書きます。書かない日もあります。でも書こうと思ってます。

ホラーとしてはいまひとつだが、なかなか読ませてくれました 名梁和泉『二階の王』

二階の王

二階の王

 

兄の引きこもりに悩む妹視点と、社会が「悪果」と呼ばれる存在に浸食されていることに気づき、抗おうとする異能者たちの視点。双方が収斂した結果、明らかになる事実とは……。
第22回ホラー大賞優秀賞受賞作であるが、額面通りに読めば怖さはほぼ皆無。しかし大風呂敷を広げた設定と中二病感あふれる表現・描写はなかなかのもの。好みは分かれるだろうが、娯楽小説としては手堅くまとまっていると思います。さらにうがって読むなら、日本社会が抱える病理のひとつは、こういう形で戯画化して表現できますよ、という狙いがあるようにも思える。
その戯画化された世界を、どうせフィクションとして割り切って笑ってお終いにすることはたやすい。しかしそれは、社会の実情から目を背けることにもつながる。その辺の自覚の有無をグロテスクに問うことが、作者の描きたい最大の恐怖なのかもしれない、と感じた。