とりあえずかいてみよう

読書とか映画とか音楽のことを書きます。書かない日もあります。でも書こうと思ってます。

「一方的なコミュニケーション」がもたらすリアル アナベル・ピッチャー『ケチャップ・シンドローム』

ケチャップ・シンドローム (ハヤカワ・ミステリ文庫 マ 13-1 my perfume)

ケチャップ・シンドローム (ハヤカワ・ミステリ文庫 マ 13-1 my perfume)

 

イギリスの女子高生ゾーイがアメリカの死刑囚宛てに送る書簡で綴られる、ある悲劇の回想と自身の再生の物語。という風に少女視点で見るならば、なかなかに良くできた物語である。しかし一方的にこの手紙を送りつけられる死刑囚の立場から考えた時、かなりグロテスクな様相を呈する物語でもある。そのグロテスクさは結局、自己を客観視できない若さがもたらす無神経さに由来するものであり、どこまで行っても提示される世界の主人公はゾーイでしかない。それはそれで、リアルでよいのだけれど。しかしまあ、はっきり言って好きになれない世界だ。

早川書房昭和女子大の学生たちと共同で新たにプロデュースしたレーベルの第1作、ということであり、私が読後に覚える違和感は、私自身が想定のマーケットではないところに由来するのだろう。だから違和感そのものを根拠に批判するつもりはない。構成や語り口が巧みで、リーダビリティはすこぶる高い。それでも好きになれない話というものは、あるのだよなとつくづく痛感する。