とりあえずかいてみよう

読書とか映画とか音楽のことを書きます。書かない日もあります。でも書こうと思ってます。

恋愛と、それ以外のすべてが美しく描かれた傑作 ウィリアム・トレヴァー『恋と夏』

恋と夏 (ウィリアム・トレヴァー・コレクション)

恋と夏 (ウィリアム・トレヴァー・コレクション)

 

トレヴァー初読み。舞台は1950年代のアイルランド、片田舎の小さな町。孤児として育ったエリーは、失った前妻と子供への悲嘆にくれる夫と静謐な生活を過ごしていた。そんなエリーはある日、フロリアンという青年と出会い、魅かれ始める。それはエリーにとって、初めての恋だった……。というわけで体裁としては恋愛小説である。しかし恋愛だけが描かれているわけではない。エリーとフロリアン、その周辺の人々。そして彼らを取り巻く町とアイルランドの、風土に歴史。すべてが穏やかで温かみのある筆致で、流麗に描かれていく。

人間描写は極めてリアル。しかし乾いた冷徹さも湿ったドロドロも感じさせず、「あるがままの人間模様」が美しい背景描写の中で自然に織りなされていく、という印象だ。短編小説の名手、と称されるだけあって場面場面の構成も見事で、これが全体として見事な長編小説の世界を成立させていると考えると、もう神業という他あるまい。トレヴァー・コレクション全五巻の劈頭を飾るにふさわしい見事な完成度でした。これは二巻以降も必読ですな!

江國香織さんの書評が非常に秀逸です。ぜひご一読を。
http://mainichi.jp/graph/2015/08/16/20150816ddm015070085000c/001.html