とりあえずかいてみよう

読書とか映画とか音楽のことを書きます。書かない日もあります。でも書こうと思ってます。

10年の断絶 西鋭夫『國破れてマッカーサー』

國破れてマッカーサー (中公文庫)

國破れてマッカーサー (中公文庫)

 

再読。初読は文庫版刊行時、2005年7月ということで世間は小泉劇場の喧騒に向かっていく真っただ中だったと記憶する。かくいう自分もあの劇場に詰めかける観衆の一員として、高揚感を覚えていたのは否定できない。そのころに読んだこの本への評価は、肯定的なものだった。

あれから10年。再読して改めて感じるのは、著者の文体のキモチワルサである。史料を綿密に調べ、埋もれた事実を丹念に組み上げていくという手法の中に、リリカルな著者の視点が挟まれることで、読書のテンポを著しく削いでしまう。多用される体言止めが、その最たる例だ。書いている本人はさぞかし気持ちいいのだろうと推察され、そこがまた痛い。

一方でかつて感じた、著者の主張への共感は、今回かなりの程度薄まってしまった。これは世相が初読時よりもはるかにキナくさいものに変貌してしまっているせいだろう。当時は新鮮に思えた著者の見地は、今ではステロタイプなものに映ってしまう。

その主張に妥当性がないとは言わない。しかしながら、こうしたテーマの本は社会を映す鏡として読まれるべきであり、その意味で私には、映し出される鏡像にいびつなものを感じてしまうのだった。