とりあえずかいてみよう

読書とか映画とか音楽のことを書きます。書かない日もあります。でも書こうと思ってます。

フィクションの偉大なる力 横山秀夫『出口のない海』

出口のない海 (講談社文庫)

出口のない海 (講談社文庫)

 

なぜ神風特攻隊ではなく、「回天」なのか、それが主人公である並木の置かれた状況とタイトルによく絡み合っている。
戦争という魔物に翻弄されつつ絶望的な運命に向かって懸命に生きていった若者たち。彼らの生きる理由もまたさまざまであり、こんな若者たちが死ぬために生きるという運命を強制されねばならなかったことが改めて戦争の悲惨さを気付かせてくれる。
そしてまた、究極的にはフィクションでしかないこの物語にそういう力があることこそ、小説の偉大さではないかと思うのだった。
最後に並木が、自分がここまで生きてきた意味、これからの運命に臨む意味に気付いたシーンは非常に重い。そして、ここまで悟りながらも並木が辿った運命に、喩えようもない残酷さを感じるのだ。それが、彼の望む運命であったとしても。