日本ミステリー小説史 - 黒岩涙香から松本清張へ (中公新書)
- 作者: 堀啓子
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2014/09/24
- メディア: 新書
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西洋における「探偵小説」というジャンル小説の勃興から、開化期の日本への伝播と揺籃を経て、モダニズム時代における成熟と衰退、そして戦後の更なる発展という筋道を辿った一冊。
副題の「涙香から清張へ」というほどにバランスはあまりよくなく、かなりの程度で涙香とその周辺の事情について筆が割かれている。いろいろ興味深いエピソードは多く、勉強になったのは事実。特に泉鏡花の作家としてのデビュー作が探偵小説だったのは知らなかった*1。
しかし乱歩以後の流れはかなり駆け足気味なのが残念だ。まあこの辺は既に多くの先行書が存在しているので、それを勘案してのことかもしれないが。
清張まで、と言いながら、その後に続く流れとして仁木悦子と中井英夫の二人をフォローしているのはなかなか趣味が良い。清張によって「推理小説」の市場が拡大された結果、女流作家や前衛的な作家の登場する土壌を育まれた、という視点はわかりやすい。
ところで、この本で最も驚いた指摘は、「メレンゲ」という言葉の語源が、シャーロック・ホームズものに登場するスイスのマイリンゲンにちなんでいる、ということだった。これはまったく知りませんでした。うへえ。
*1:多分に当時の出版事情が影響している