とりあえずかいてみよう

読書とか映画とか音楽のことを書きます。書かない日もあります。でも書こうと思ってます。

「語りたい」価値を持つ作品 ピエール・ルメートル『その女アレックス』

その女アレックス (文春文庫)

その女アレックス (文春文庫)

 

昨年の翻訳ミステリ界隈の話題を総ざらいした感のあるこの作品。その話題性や注目度は、それに魅かれて読んだ人の期待感を否応なしに上げてしまう。結果として肩透かしを覚えてしまったという感想も少なくないようだ。「余計な知識なしに読んでほしい」本の典型というべきで、つまり感想を書くことすら本来は不要なのかもしれぬ。それでもこの作品について語りたいことは多い。究極的には「なぜこの事件は起きたのか。その真相を知った者たちはどう反応し、行動するのか」という点が読みどころとなろう。問われるのはもちろん、読者も含めてだ。
物語そのもののリーダビリティが高く、過度にグロテスクな描写や個性的な捜査陣の面子なども相まって「評判の現代もの翻訳ミステリ」というレンズだけを通して読んでしまうと、この辺りが読み過ごされてしまうのではなかろうか。少なくとも私にとっては、いずれ改めて再読したい価値を持つ作品だった。