とりあえずかいてみよう

読書とか映画とか音楽のことを書きます。書かない日もあります。でも書こうと思ってます。

まさしく傑作 ニコラス・ブレイク『死の殻』

死の殻 (創元推理文庫)

死の殻 (創元推理文庫)

 

再読。クリスマス読書です。英国空軍の英雄ファーガス・オブライエンのもとに、クリスマス当日彼の殺害を予告する手紙が届く。護衛のためナイジェル・ストレンジウェイズが彼の邸に赴くが、果たして聖誕祭の朝、悲劇の幕が上がり……。

舞台は古風なカントリーハウス、そこに集うのは大勢の不審な容疑者たち。「堂々たる本格ミステリ」と呼ぶのに相応しい道具立てと、パズルのピースのように収まっていく数々の心理的手がかり、鮮やかに世界を反転させる語りの妙など、賞賛すべき点は枚挙にいとまがない。しかし何より特筆すべきは、その犯人像だ。

いまだかつてこれほど痛ましく心を打つ犯人像を私は知らない。この犯人を生み出したというだけでもブレイクは本格ミステリ史上に不滅の名を残す価値があるだろう。原題は、”THOU SHELL OF DEATH”「汝は死の殻」 この謎めいたタイトルの意味を理解した時初めて、このミステリが持つ意図も理解できるだろう。

以下ネタバレにつき文字反転。2001年の初版刊行時のオビの煽り文句は「復讐はなされ英雄は死んだ 謎を解き明かした探偵が語るのは復讐者の正体とその悲劇的な姿」。まったく嘘を書いていないのに、すさまじいミスディレクションとなっている。翻訳ミステリの老舗・東京創元社の面目躍如といったところだろう(この本の担当編集者は松浦正人氏だったと記憶する。この職人芸も納得であります)。