とりあえずかいてみよう

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まさに「掘り出し物」! ラッセル・ブランドン『ウィンブルドン』

ウィンブルドン (創元推理文庫)

ウィンブルドン (創元推理文庫)

 

世の中に埋もれた名作というのはあるもので、1979年に新潮社から刊行(原著は77年刊)されたこの作品、35年ぶりに創元推理文庫から復刊となったそうだ。解説で北上次郎氏も「当時こんな本が出ていたとは知らなかった」と述べている。内容は、オーストラリアとソ連のテニストッププレーヤー同士の友情と、その二人が雌雄を決するウィンブルドンの試合の陰で進行する大胆不敵な犯罪を描くもの。臨席するエリザベス女王も犯罪に巻き込まれるという、なかなかに豪華な筋立てだ。
ストーリーは、よく言えば無駄がなくシンプル。悪く言えば起伏が無くて平坦なのだが、これはほぼありとあらゆるパターンのエンタメ作品を体験してきた現代人の贅沢な物の見方だろう。たぶんハリウッドの超大作娯楽映画のひとつの源流に当たるのが、この作品なのではないだろうか。流れるようにサラっと展開する物語は、逆に言えば新鮮な感じもする。時代のゆえに便利で無粋なIT技術など出てこないのが微笑ましい。
何よりも二人のテニスプレーヤーの友情と、ウィンブルドンでの試合展開が実に熱く爽やかに描かれており、むしろ主眼はそちらであって犯罪の方はオマケであるとすら言える。ちなみにテニスの知識がなくても十分楽しめるのは、解説の北上氏と同様私もだったので、その辺はご安心あれ。これはなかなかに拾い物の作品かと思います。この復刊を決めた東京創元社は偉いなあ。