とりあえずかいてみよう

読書とか映画とか音楽のことを書きます。書かない日もあります。でも書こうと思ってます。

「上手いミステリ」ではないが「上手い小説」  ピーター・メイ『さよなら、ブラックハウス』

さよなら、ブラックハウス (ハヤカワ・ミステリ文庫)

さよなら、ブラックハウス (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 

スコットランドの西方、ヘブリディーズ諸島最北のルイス島で、嫌われ者の男の惨殺死体が発見された。その手口が以前エジンバラで発生した事件と酷似していたことから、同島出身の刑事フィンが捜査に加わることに。フィンはかつて自分が幼年期から青春時代までを過ごした人口2万の小さな島で「真実」を見つけることになる……。「謎を解く」のではなく「謎が解けていく」タイプの典型的なミステリ。20代のころなら絶対に受け付けてない話だったと思うが、40歳も間近の身にはいろいろ考え込まされる内容だった。
圧倒的に抜きんでているのは、ルイス島の自然とそこに暮らす人々の生活の克明な描写。そして一人称・三人称を駆使して過去と現在を語りつないでいく構成の妙である。つまりは小説として非常によくできているので、自然と読み耽り、勝手に現れては解けていく謎も、自然な流れとして受け入れてしまうのだった。ずるいなあと思いつつも、大変面白く読めました。
この作品は三部作の第一部ということで、次作もルイス島を舞台にフィンが刑事役として登場するらしい。このフィンという人物については、要所要所で「いや、人としてどうなのよお前」とツッコミたくなることも多いのだが、まあ冒頭で語られる現状から結末での選択も含め、第二部では果たしてどんなツラして読者の前に登場してくれるのかと大いに気になる。というわけで続きが楽しみな作品と相成りました。最後に、ガジェット重視なミステリファンにはまかり間違ってもオススメいたしません。ご注意されたし。