レンズが撮らえた19世紀ヨーロッパ―貴重写真に見る激動と創造の時代
- 作者: 海野弘
- 出版社/メーカー: 山川出版社
- 発売日: 2010/12
- メディア: 単行本
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都市文化論や世紀末芸術論などで著作の多い海野弘はじめ、学者や作家、写真研究家などが様々な視点から、19世紀ヨーロッパの姿を捉えた貴重な写真を基に当時の世相を語る。海野の「室内から外へ」は他の著作での指摘が過不足なくまとめられ、分かりやすい。「都市が大きくなり大通りが明るくなるほど、その背後にアンダーワールドが拡がる」という指摘や、そこから生じる怪事件とそれを報道するジャーナリズムの発展という図式は、探偵小説の揺籃にもつながるものだし、写真技術において発見されたネガ・ポジ法と重なるとも言えるかもしれない。
掲載されている写真には有名なものもあれば初めて見るものもある。各国王族の写真をまとめた章では、まずヴィクトリア女王とその子供たち、孫たちの揃った写真に目を奪われる。まさに欧州のゴッドマザーというべき錚々たる顔ぶれ。ロマノフ家の写真は、その悲劇的な最期を思うと辛くなる。特にp73上段の写真は胸に迫るものがある。このほか、ハプスブルク家最後の皇帝カール1世の退位後の人生や、ポルトガルやギリシャなどあまりよく知らない王室の顛末など、興味深い情報が多い。
特に面白かったのは、第二帝政期パリの社交界を彩ったドゥミモンデーヌ(高級娼婦)たちについて述べた章。ナポレオン3世の甥ですら、自分の手当てだけで一人のドゥミモンデーヌを養うことはできなかったというのだから驚きだ。やがて社交界の主役が、浪費を是とする貴族から勤勉と投資を至上のものとするブルジョアにが変わることで、ドゥミモンデーヌはその姿を消していく。掲載されている写真にそれほどの美人はいないかなと思っていると、本文で「ドゥミモンデーヌの本質は才知や賢さにあり、その魅力は写真に表れにくい」とあって納得されられた。
最後は細々としたツッコミを。p125のニーチェの写真は、目力がスゴイ。ドヤァ!って感じですw 次のページのヴェルディの写真は、ごめんなさい最初ラスプーチンだと思いました。怪しすぎるぜ! p130のラフマニノフの写真は映りが悪いけど、いかにもよく回りそうな指をしてらっしゃいますね。p154のモディリアーニの愛人ジャンヌは大変迫力ある美人ですが、恋人の死から2日後、22歳で投身自殺したとか。あの迫力で22歳以下なのか……。