とりあえずかいてみよう

読書とか映画とか音楽のことを書きます。書かない日もあります。でも書こうと思ってます。

それでも価値を失わぬ音楽 中川右介『カラヤン帝国興亡史』

タイトルから想起される通り、ゴシップ的な興味を喚起する「ギョーカイの裏側」を語る内容である。その下世話さの大部分を構築するカラヤンという人物の足跡を、本書が芸術的・音楽的な見地で評価することはほぼ無い。

カラヤンの音楽を追体験する術は読者一人一人に与えられている。だからこの本に書かれている 知識は不要なものなのかもしれぬ。しかし音楽そのものに魅力を感じることもあれば、その音楽の背景となる歴史に魅力を見出すこともあろう。「余計な知識は 知りたくない」と遮断し得るほどに現代人は狭い世界に暮らせてはいないのだから。

ともかくも、私はカラヤンの音楽を聞いて感銘を受けたし、その感銘は私以外の人間に否定されるものではないと確信する。そして、そんな感銘を与えてくれた音楽を創造した人物が、本書に描かれるような人物像であったとしても、私にとってはそれ以上でも以下でもない事実に過ぎない。私はこれからもカラヤンの音楽を聴きたいと思うだろうし、聴くことだろう。

そうなのだ。カラヤンは相変わらず、ヨーロッパ楽壇の音楽総監督であるばかりか、ヨーロッパの帝王であった。他にそんな地位を望む者がいなかったので、いつまでもカラヤンが、その座にあり続けた。