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読書とか映画とか音楽のことを書きます。書かない日もあります。でも書こうと思ってます。

「何かを語る」ことの、理想形 霜月蒼『アガサ・クリスティー完全攻略』

アガサ・クリスティー完全攻略

アガサ・クリスティー完全攻略

 

ミステリ書評家・霜月蒼氏による「クリスティ作品を、古典としてでなく今ここにある新作として読み、評する」試み。

翻訳ミステリ大賞シンジケートのブログ で約4年の期間を経て達成されたこの試みは、「人の心を打つレビューとはかくあるべし」という見本と言えよう。言葉や言い回しの絶妙な選択、ブレが無く押 しつけがましくもない主張。そして作者クリスティと既読のファン、さらに未読の読者すべてに配慮の行き届いた誠実な態度。

これを「端正なレビュー」と呼ばずして、他に何と呼ぶのか。ミステリを愛するすべての人が読む価値を秘めた良書です。

「クリスティーの不幸は、昭和のコトバでは捉えることのできない傑作があまりに多いことだった」

この指摘の大胆さ! 霜月氏自身も含まれる30代後 半~40代前半の翻訳ミステリファンは、まさにそうした昭和の価値観で、自身のミステリ遍歴を辿ってきたはずである。こういう「昭和時代のタグのアップ デート」(←本文中の霜月氏の表現。こういう言葉のチョイスにシビれます)はその後90年代後半、国書の世界探偵小説全集に端を発するクラシックミステリ のムーブメントで、大きく成果が上がってきた。

その中で、圧倒的な知名度の高さゆえに正統に評価される向きの少なかったクリスティという作家を捉えなおすという作業は、極めて貴重なものなのだ。間違いなく、日本のミステリ史に不滅の名を残すべき書物であります。

しかもレビュー対象たるクリスティ同様、肩ひじ張らずに気軽に楽しめる内容であり、やはり これが「レビューというものの理想形」なのだと痛感する次第でありました。強烈にオススメの一冊!