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多くの「天才」と戦い続けてきた一流棋士の述懐 二上達也『棋士』

棋士

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羽生善治三冠の師匠で将棋連盟会長も務めたプロ棋士二上達也九段が、日経新聞に連載した「私の履歴書」に加筆してまとめた本。幼少時代の両親・家族のこと、 木村十四世名人の思い出、大山・升田時代に繰り広げられた名勝負、内藤・加藤・米長・中原など同期や後輩との激しい争い、そして七冠制覇を達成する弟子、 羽生の登場までを語る貴重な読み物。

先輩棋士の時代は当たり前だった「盤外戦」に対して否定的な立場を示す一方で、将棋から「人と人とのぶつかり合い」と いう考えが消え、盤面の勝負だけに限定されることへの寂しさも覗かせている。その辺りが、長期にわたって一線で活躍してきた古豪(と呼ぶには繊細なイメージの強い人だが)ならではの見方という気がする。

いろいろ興味深いエピソード が多いが、特に印象的なのは子供のころ、家族に何気なく指摘された「目つきが鋭い」という一言がコンプレックスつとなったこと、そのため後に弟子の羽生が 癖とした、対局中の「羽生睨み」と呼ばれた目つきについても、それを注意することで嫌な思いをさせたくないと思って放っておいた、というエピソード。これはじわっと来た。

あと、以前読んだ升田の自伝で語られていた「陣屋事件」についても、当時まだまだ駆出しの棋士だった二上から見ると、いつの間にか対局拒否した升田が被害者になって、最大の被害者のはずの木村が事の裁定を委ねられる、という展開をおかしなものと感じた、と語っている。これは確かにその通りだよなあ。