とりあえずかいてみよう

読書とか映画とか音楽のことを書きます。書かない日もあります。でも書こうと思ってます。

『裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル』

裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル (ハヤカワ文庫JA)

裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル (ハヤカワ文庫JA)

 

作者は非常に頭の良い人なのだろうなと感じる。web上に流布するオカルトネタとそこに加味されるSF的設定や解釈、てらいもなく用いられるネットスラング、中心にある百合コメディなノリ。これらの要素がすべてかっちりハマって組みたてられた物語だ。

このパッチワークとしての巧みさは、同時に読者に、深みのない軽い物語という印象も与え得る。この二重性こそが、「現実」と「異世界」の狭間での冒険を描いたこの作品の象徴ではないだろうか。投げ出されたように読める結末も、読者が異世界の入り口に彷徨い込んだことを示す一つの解だろう。

澤村伊智が『ぼぎわんが、来る』でネットロアを直球の正統派ホラーに昇華させたとすれば、こちらはかなりのクセ玉で、ホラーとして楽しめるかどうかは読者のネットロアに対する習熟度に拠るため、「怖さ」を感じるには振れ幅が大きいだろう。私は十分に怖さを感じ取りましたが、万人向けではないと思います。ともあれ、続編を大いに希望したい一冊でした。

百合としてのみ読んでも、葛藤のもどかしさがかなりガチなので、それだけでも十分に楽しめます、と補足しておきましょう。これはいいものですよ。