とりあえずかいてみよう

読書とか映画とか音楽のことを書きます。書かない日もあります。でも書こうと思ってます。

牧歌的な雰囲気と堅実な構成 フォルカー・クルプフル『ミルク殺人と憂鬱な夏』

ミルク殺人と憂鬱な夏──中年警部クルフティンガー (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ミルク殺人と憂鬱な夏──中年警部クルフティンガー (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 作者: フォルカー・クルプフル,ミハイル・コブル,岡本朋子
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2016/07/22
  • メディア: 文庫
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ドイツの片田舎、アルゴイ地方の中年警部クルフティンガーは、恐妻家の粗忽者だが、それでも周囲から一目置かれる存在。ある日、この地域では珍しい殺人事件が発生し……。
警部をはじめ妻や部下、近所の人間、事件関係者の描写が巧みで、そのやり取りがいちいち楽しい。牧歌的な田舎暮らしの様子や警部が摘まむ食べ物の描写も、非常に魅力的だ。
本国では映像化もされた人気シリーズとのことだが、シチュエーションコメディ的な要素が強く、確かにドラマ向きな内容であることが分かる。警部が折々でしでかすドジっ子ぶりには激しく萌えざるを得ない。
ミステリとしては、警部の織りなすドタバタ劇で脇道に逸れつつも、重要な手がかりや情報が少しずつ集まりだし、着実に真相に近づいていくという手堅い構成。解決がやや性急なきらいはあるが、真犯人の最後のセリフにはなかなか心を打たれるものがあった。
事件の重要な背景となる酪農産業・酪農文化についても、日本人から見ると新鮮な話が多く、そういった面でも楽しめる。
傑出した面白さはないけれど、ユーモアミステリやご当地ミステリ好きなら読んで損はない内容かと。シリーズ続巻が待ち望まれます。