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現代日本文学史の交通整理としては最適か 佐々木敦『ニッポンの文学』

ニッポンの文学 (講談社現代新書)

ニッポンの文学 (講談社現代新書)

 

日本の文芸批評では周知のように受け入れられている「純文学と大衆文学」という視点から意識的に脱却し、純文学もジャンル小説のひとつであると認識するところから筆者の論は始まる。
70年代末~80年代に活躍した作家の文体論(村上春樹と庄司薫、栗本薫らが用いる「僕」の意味合いの違いに関する考察など、秀逸な分析が多い)や、「冬の時代」を経てジャンル小説として先鋭化していく本格ミステリ論とSF論、さらに90年代・ゼロ年代小説それぞれの読み解き方など、文芸史の交通整理としては極めて分かりやすい内容であり、一読の価値はある。
しかし「踏み込んだ批評」を期待すると、前半はともかくミステリやSFを論じ始めて以降の部分は、表面的なガジェットに注目しがちでそれが如何に社会世相を反映しているのか、といった同時代意識の考察が薄まっているようにも思える。
総じて、全体論としては分かりやすいけど、個別論としては散漫な印象を受けた。新書に贅沢な注文を付け過ぎなのかもしれないが。