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とりあえずかいてみよう

読書とか映画とか音楽のことを書きます。書かない日もあります。でも書こうと思ってます。

探偵小説界の巨人の技量と足跡を味わい尽くせる短編集 『江戸川乱歩名作選』

江戸川乱歩名作選 (新潮文庫)

江戸川乱歩名作選 (新潮文庫)

 

乱歩存命中に刊行された文庫本としては唯一、今なお版を重ねるロングセラーとして、さらに乱歩への入門書としても名高い新潮文庫のベスト版『江戸川乱歩傑作選』。その第二冊めを編んでほしいと新潮社から依頼を受けたのが、本書の選者である日下三蔵氏。そのプレッシャーたるや想像もつかないものだったと思うが、結果的に編集者・アンソロジストとしての氏のセンスが如何なく発揮された内容となっている。
冒頭の中編「石榴」(初読)は、探偵小説の骨格を備えていたはずの筋書きが結末で、異様な旋律を奏で始めることで極上の戦慄を生み出す。
同じく初読の「白昼夢」はショートショートというべきボリュームだが、冒頭から結末まで悪夢めいた世界がノスタルジックな情景描写と重ね合わさって、異様な読後感を醸し出している。
他にも「押絵と旅する男」「目羅博士」「陰獣」など、何度読んでも夢中になって読み耽ってしまうその圧倒的な語りの妙を味わい尽くすことができる。
本格探偵小説を愛しながらも、自作の通俗性を低く評価していたことで知られる乱歩だが、彼が遺した蠱惑的で豊饒な物語の沃野は、これから先も多くの読者を魅了し続けることだろう。