とりあえずかいてみよう

読書とか映画とか音楽のことを書きます。書かない日もあります。でも書こうと思ってます。

「怪奇小説」の枠を超えた、女性の心理描写の妙 サーバン『人形つくり』

人形つくり (ドーキー・アーカイヴ)

人形つくり (ドーキー・アーカイヴ)

 

長らく謎の作家として知られていたという英国の作家サーバンの中編2編を収録した1冊。
「リングストーンズ」はヘンリー・ジェイムズの「ねじの回転」を想起させる構成・筋書き。あちらが単なる怪奇小説に留まっていないのとは別の意味で、こちらも超異色の展開だ。怪異そのものよりも怪異にとらわれた女性が彷徨う迷宮のような心理が、幻想的な情景描写と重なって魅力を生み出している。
表題作「人形つくり」は、ありきたりな筋書きに見えながらやはり女性心理の、非合理でありつつも美しい葛藤に、読み手の心は大いにかき乱され、魅かれてしまう。
作者サーバンは本名をジョン・ウィリアム・ウォールといい、英国の外交官であったそうだ。神経症的な心理描写と幻想的な情景描写という点で、ダフネ・デュ・モーリアを想起させるものがあった。実に癖になりそうな作風で、好みの作家。日本では1968年に『角笛の音の響くとき』がハヤカワSFシリーズから刊行されていたという。これも読みたい。