とりあえずかいてみよう

読書とか映画とか音楽のことを書きます。書かない日もあります。でも書こうと思ってます。

人類の愚かさと、音楽の偉大さと 中川右介『戦争交響楽 音楽家たちの第二次世界大戦』

戦争交響楽 音楽家たちの第二次世界大戦 (朝日新書)

戦争交響楽 音楽家たちの第二次世界大戦 (朝日新書)

 

政治と軍事が一体化した恐るべき権力が、文化や芸術に対し統制を図り始めた時、どれだけ多くの人々が本来持った才能と果たすべき役割を捨てねばならないのか。そのあらましを、クラシック音楽と第二次大戦に焦点を絞って綴った歴史ドキュメンタリーが本書だ。
記述はあくまで淡々としているがゆえに、その陰にあったであろうドラマに思いを寄せることができる。とりわけフルトヴェングラーの、自己の信じる芸術を守るために時代に翻弄されたその姿には、同情を禁じ得ない。批判されるべき点があるにせよ、音楽に対する彼の誠実さは損なわれるべきではない。
現代の価値観で、当時の「ナチスに加担した」とされる人々を断罪するような傲慢さから、少なくとも私は距離を置きたいと考える。現在が当時から何かを学んでいるという状況だとは、とても思いにくいからだ。
そしてそれ以上に、たとえ人類の愚行がこの100年間に積み重ねられてきたにしても、音楽が持つ普遍性は失われていないということに希望を見出したい。