自身の作家デビュー以後の探偵小説文壇のリアルな息吹と、それを通じて当時の世相を垣間見せてくれるエッセイ集。綺羅星のごとき作家の名前が登場するが、とりわけ大きな存在感を見せるのは、やはり乱歩だ。
特に224頁から始まる「私の江戸川乱歩」には思いが結実されている。若き日に面と向かって「先生は眼高手低ですな」と語ったエピソードは、その後の乱歩作品の分析と相まって実に読みごたえがある。この他にも、探偵小説というジャンルそのものを著者がどうとらえていたか、また筒井康隆に対する高い評価など、興味深い話題が多い。
実作では独特のニヒルさが際立つ著者であるが、自分の素性を明かすがごときこうしたエッセイでは、ニヒルさの中にじんわりとあたたかい人柄と、冷静で精緻な思考の道筋が見て取れ、改めてその奥深さにほれぼれしてしまう。得難い一冊でした。