とりあえずかいてみよう

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ハードボイルドを体現した人生 小鷹信光『私のハードボイルド』

私のハードボイルド―固茹で玉子の戦後史

私のハードボイルド―固茹で玉子の戦後史

 

著者追悼の意味を込めて再読。日本におけるハードボイルド文化の第一人者が、自身の半生と戦後の翻訳ミステリ史を重ね合わせながら語りつくす、ジャンル論および文化論としての名著である。乱歩の『探偵小説四十年』を読んでいた時と同じように味わう感銘は、そのジャンルなり文化なりを背負って立った巨人にしか語りえない回想であるという共通点に由来すると思われる。そのうえで著者ならではのストイックな姿勢と文体から自然と襟を正してしまう気迫を感じるのだ。「ハードボイルド」と人生が完全に一致した、その証しなのだろう。

ワセダミステリクラブ創立のまさにその場に立ち会っていたり、大藪晴彦が『野獣死すべし』でデビューする様子を間近で見ていたり、EQMMマンハントヒッチコックマガジン三誌鼎立の中で文筆家としての活動を始めたりなど、まさしく戦後ミステリ史の生き字引と呼ぶにふさわしい人生を歩まれた著者であったが、惜しくも去る12月8日、鬼籍に入られた。今ごろは同時代に翻訳ミステリ文化を支えて来た各氏と天国で大いに語り合われていることであろう。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。