とりあえずかいてみよう

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「青春」を描くことの難しさ 友桐夏『星を撃ち落とす』

星を撃ち落とす (創元推理文庫)

星を撃ち落とす (創元推理文庫)

 

オビにある「多感な少女たちの心を描く青春ミステリ」という言葉に魅かれて読んだが、予想していたものとはかなり違う読後感。「青春」という言葉には、ほろ苦さややるせなさも含まれよう。だがこの作品で描かれるのは、そんな言葉では表現できないほどの「黒さ」であり、その正体も曖昧模糊としている。曖昧であることはこの作品の肝でもある。おそらく解決のカタルシスに作者の興味はなく、提示された「真実」がもたらす居心地の悪さが、少女たちが今後歩む人生の軌跡の一端を示しているようにも思える。その意味での「青春」の描き方は、上手い。

一方で青春には、躍動感や瑞々しさもまた含まれるはずだ。しかし作中で描かれる少女たちから、そうしたものを受け取ることはできない。「人間が描けてない」という類型的な批判をするつもりはないが、一方を描こうと集中するあまり、もう一方には手が及んでいない印象を受ける。拵え物としては精緻であっても、読み物としての色気に欠けてしまうのが、何とも惜しいところだ。