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とりあえずかいてみよう

読書とか映画とか音楽のことを書きます。書かない日もあります。でも書こうと思ってます。

抑制の効いた語り口の先にある凄味 ピエール・ルメートル『天国でまた会おう』

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天国でまた会おう

天国でまた会おう

 

昨年『その女アレックス』をもって一躍、日本のミステリファンに名をとどろかせたルメートルの、現時点での最新作であり、2013年のゴンクール賞受賞作。第一次大戦終戦直前に戦場で起きた事件が、戦後の混乱冷めやらぬフランスの社会を激震させる一大事へと発展する。と書けば波乱万丈のスペクタクル巨編となりそうなものだが、作者の筆は抑制が効いており乱れることは無い。その上で、戦争の悲惨さと愚かしさ、その狭間で翻弄される人間たちのやるせなさとしぶとさを描き出す。これはひとつの「戦争文学」といって差し支えないだろう。

作者の語りの上手さにより、先の見えぬ展開への興味が喚起され、アルベールとエドゥアールの、プラデルへの復讐が為されるものかと大筋の関心は向く。だが決してカタルシスの得られる結末とはならない。クライマックスの描写と、後日譚の語り口があまりに淡々としているためだ。しかし同時に胸に湧いたのは、落ち着くべきところに落ち着いたという安心感でもあった。

ハードカバーで570ページ超の大著である。このボリュームを一気読みさせ、なおかつ自然と結末を得心させるその筋運び。これはやはり、第一次大戦という大惨事への、ルメートルとフランス人が抱く距離感ゆえなのだと思われる。日本人にとっては縁遠い感のあるこの戦争は、ルメートルにとってはまだまだ身近で、忘れることのできない事件なのだろう。その事件を「物語」として転化させる覚悟と技術。両者に、職人的な凄味を感じてしまうのだった。

アレックスとは別な意味ですぐに再読したくなる、印象深い描写の多い作品だった。圧倒されました。