とりあえずかいてみよう

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ラーメンが繰り出す「論理のアクロバット」 速水健朗『ラーメンと愛国』

ラーメンと愛国 (講談社現代新書)

ラーメンと愛国 (講談社現代新書)

 

本格ミステリにおける評価軸のひとつに「論理のアクロバット」という観点がある。一見したところ関連性の無さそうなモノ同士を如何にロジックで結び付けて「これしかあり得ない」という真相に着地させるか、というものだ。これが上手くいかないと「単なる屁理屈でしょう」と批判されかねない。で、本書でありますが、いやはや、鮮やかな論理のアクロバットを数々魅せてくれる内容であります。
著者はフリーのライター・編集者で、メディア論や都市論が主戦場らしいですが、「ラーメン」を論じるために引っ張り出してくる引き出しの多さよ!

第1章・第2章では、インスタントラーメンの祖・安藤百福を中心に据えつつ、戦後日本におけるアメリカの食品帝国主義の浸透とそれへの抵抗や、T型フォードによって確立された大量生産方式と軍国主義日本の敗北の原因を、「ラーメン」という視点から分析していく。どうですか、「論理のアクロバット」を用いない限り、なかなか結び付かなさそうでしょう?

以後、田中角栄の列島改造論を起点にした「ご当地ラーメン」という偽神話の誕生や、激戦化するラーメンブームと湾岸戦争の関連性、マスメディアがリアリティショーとして生んだ「ご当人ラーメン」の登場など、話題の種は尽きることない。宗教化するラーメンという視点ではラーメン二郎が俎上に載せられるが、かつてはジロリアンを自任していた自分でも不快に感じない、バランスの取れた論理展開で非常に面白く読める。

新書という性格上、個々の考察が薄いのは確かだ。しかしそれは、挙げられた数々の参考文献を個々の読者が手繰っていけばよい話である。「なぜラーメン職人は作務衣を着るのか」 その理由が知りたければ、ぜひご一読を。