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とりあえずかいてみよう

読書とか映画とか音楽のことを書きます。書かない日もあります。でも書こうと思ってます。

純文学と娯楽文学の美味しいところ取り ジェス・ウォルター『美しき廃墟』

美しき廃墟

美しき廃墟

 

1960年代のイタリア、風光明媚な片田舎の海辺の村と、輝かしき虚飾の都・現代のハリウッド。二つの舞台が入れ替わり、そこに登場する人物たちの複数の視点が複雑な心理模様を描いていく。やがて二つの世界は交錯を見せ、最後に美しき着地を見せる。文芸作品として最上の構成ではないかと感じる、珠玉の完成度だった。

物語は虚構と現実が入り混じって展開しているようで、映画好きの方なら様々な楽しみ方があるものと思われる。私はそこまで映画に詳しくないので、読みこめはしなかったけど、語りの妙から感じるのはやはり、小説という文学形式が持つ繊細さと力強さであります。プロットだけを取り出してみると単純なのに、かくも目くるめく美しき物語の大伽藍が築き上げられるという、その不可思議さ。これはもう魔法ですよ。

イタリア編とハリウッド編の、雰囲気の対比がまたリーダビリティを促進させる。片や素朴で純粋な「ありのまま」が描かれ、片やブラックな笑いに満ちたこしらえ物の「精巧さ」が描かれる。あるいはここにもまた、虚構と現実の交錯を見て取ることが可能なのかもしれない。そう考えると、やはり意味深なタイトルである。

純文学なのかというと、娯楽としての面白さが過度に感じられ、娯楽小説としては描かれる世界のきらめきが過度に感じられる。地味なタイトルと立ち位置でありますが、独特の体験が味わえる作品だと思います。お薦め。