とりあえずかいてみよう

読書とか映画とか音楽のことを書きます。書かない日もあります。でも書こうと思ってます。

「犯人当て」としてはちょっとハードル高いと思う ミルワード・ケネディ『霧に包まれた骸』

霧に包まれた骸 (論創海外ミステリ)

霧に包まれた骸 (論創海外ミステリ)

 

戦前、犯人当て懸賞小説として紹介された作品の完訳だそうだが、抄訳では全体像を理解することは不可能だったろう。完訳ですら容易に咀嚼し切れない内容なのだから。霧の中で発見された死体を巡って次々と謎が生じ、読者を混迷に陥れる。作者がことさらに読者を悩ませようとプロットを錯綜させているためで、心地よい驚きが最後に得られるとは保証できない。それでも私はこういうイジワルな英国本格が大好きなので、楽しめました。解説は、この系譜の探偵小説の第一人者というべき真田啓介氏。欠点を的確に指摘した上で読みどころを掬い上げている。
まあとにかく人を選ぶミステリだということは間違いない。単純な「作者対読者」という構図のゲーム的探偵小説とは言い難く、そこからはみ出した部分を冗長と感じるか独特の味付けと感じるかで評価が変わって来るでしょう。訳そのものはケネディの既訳作品2冊に比べても格段に読みやすい気がして、ちょっと印象が改まりましたけど。