とりあえずかいてみよう

読書とか映画とか音楽のことを書きます。書かない日もあります。でも書こうと思ってます。

ぼくの読書遍歴の原点 赤川次郎『ぼくのミステリ作法』

ぼくのミステリ作法 (角川文庫)

ぼくのミステリ作法 (角川文庫)

 

問答無用のベストセラー作家がかつてミステリ・マガジンに連載したコラムをまとめたエッセイ集。何度読んだか分からない本だが、今回kindleにて再読。初読は中1ごろか。ミステリといえばまだドイルとクリスティ、クイーンにヴァン・ダイン、そして赤川次郎くらいしか読んでいなかった私にとって、この本は憧れの作家の披露するミステリ知識の宝箱だった。そう、このエッセイにはミステリファンとしての赤川の読み巧者ぶりがよく出ている。読まずに軽視されがちな作者であるが、該当するものはこのエッセイを読んで己の不明を恥じるべきだ。
パトリシア・モイーズやコリン・デクスターといった作家を読むようになったのは、この本の影響である。クイーンの『フォックス家の殺人』やカーの『喉切り隊長』も、赤川の解説なかりせば容易に手に取ることは無かったろう。いや、ミステリに限らずグレアム・グリーンシュテファン・ツヴァイクに出会えたのもすべてこの本のおかげだ。ミステリ読者としての私個人にとっては、原体験・原風景と呼ぶのに相応しい本の一冊である。今回再読してみて、改めてこの本に感謝の気持ちをささげたくなった。ぜひとも後世に残してほしい名著だと思います。
後半は、コラムで語られたミステリ作法の実践編として4つの短編が掲載されており、脚注で赤川の解説が入っているのだが、これがまた実にユーモラスで楽しい。多作な赤川ならではの書き方というところもあれば、さすが抜かりのない手続きを取っているなというところもある。実際にミステリ作家となろうとするためのハウツー本と読んでしまうとつまらないだろうが、ミステリを好きになって欲しいなという人にはぜひとも読んでもらいたい本だと断言したい。