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とりあえずかいてみよう

読書とか映画とか音楽のことを書きます。書かない日もあります。でも書こうと思ってます。

トリックそのものが本質のミステリではない ギルバート・アデア『ロジャー・マーガトロイドのしわざ』

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ロジャー・マーガトロイドのしわざ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1808)

ロジャー・マーガトロイドのしわざ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1808)

 

 クリスマスの夜、雪に閉ざされた山荘で密室殺人が発生するという古典的な筋立てだが、そこは『閉じた本』の作者。ストレートなミステリにはなっていない。
実際のところ、用いられるトリックは海外・国内問わず先行作があり、それらの方が使い方は上手い。しかしタイトルからも漂うように、クリスティへのオマージュとして書かれた本書には、随所に本格というジャンルへの批評性と遊び心が溢れている。もともと批評家が本職であるという作者の、そうした斜に構えたところが、トリックの使用法と相まって物足りなさを感じさせるのも事実である。

ジャンルとしてのミステリ小説に帰属意識のある人が、過度に期待せずに「ミステリプロパーではない作者の書いた実験作」程度の認識で読んだら、十分に楽しむことはできると思う。
留保条件が多すぎるかもしれないが、少なくとも私は上記の心構えで読んだので、楽しめました。作者がどんなタイプの小説を書く人かは『閉じた本』の方がつかみやすいと思うので、そっちから入るといいんじゃないでしょうかね。

若島正さんが解説で「アデアにとってのクリスティの魅力は、そのポストモダン性にある」「(アデアの面白さは)ポストモダン的な軽さ」と評しているのは、さすがの上手い指摘ですね。本格ミステリパラノイアックな論理性を追求するのではなく、スキゾ的な脱構築を目指しているのが、良かれ悪しかれこの作者の特徴なんだと思います。