暗くてどんより、みたいなイメージのせいで長らく敬遠してきた作家だったが、この中編集はやたらと評判が良いので、手に取ってみた。
結論。すげえ。2編合わせて文庫で300ページしかないのに、めちゃくちゃ濃密。でも抜群に読みやすいという、何とも贅沢な本である。
「養鶏場の殺人」は、1920年代に英国 で起きた実際の殺人事件がテーマ。被害者の女性の描写には悪意が感じられるほど容赦がないし、加害者の男性の境遇はあまりに悲惨である。それでも男の方にも同情と共感を抱かせない、やるせない読後感が、作者の狙いか。上手すぎる。
「火口箱」は、イングランドの片田舎で発生した殺人事件に端を発する、村八分的な連鎖反応を生々しく描いている。アイルランド人に対する差別問題も絡み合い、胸に響く重みはさらに増す。その上でトリッキーな真相が、物語を通じて巧妙に明かされていく。参りました。これぞ手練れの業。これからもっとこの作家を読まねば、と思います。