オビに「雪の山荘版『そして誰もいなくなった』」と謳われている通り、黄金時代の探偵小説を髣髴とさせる筋立てですが……。
解説で福井健太さんが指摘する 「巧くない小説」というのが全て。特に翻訳ものの本格を読みなれている人は、かなり早い段階で犯人が分かるでしょう。
これを丁寧な手がかりの配置によるフェアプレイ、と見てもよい。でもそのフェアプレイすら「本格ってこう書けばいいんでしょ?」という教科書的手続きとして済ませてる感じが否めません。この作者に決定的に欠けてるのは「何としても読者を騙してやろう」という稚気なんだと思います。
本格ミステリとは様式美の産物ですが、様式美はマニュアル化されるものではない。作者は本格のエッセンスの、表層的な部分しか汲み取れていないようです。評価するとしたら、300ページという極めてコンパクトなサイズにまとめてくれたところくらいでしょうか。