とりあえずかいてみよう

読書とか映画とか音楽のことを書きます。書かない日もあります。でも書こうと思ってます。

腑に落ちる話ばかり 藤沢周平『長門守の陰謀』

長門守の陰謀 (文春文庫 (192‐5))

長門守の陰謀 (文春文庫 (192‐5))

 

立風書房から刊行された短編集の文庫版で、昭和51年~52年の期間に発表された作品5本を収録。総じてどれも上手いが、個人的には「春の雪」と「夕べの 光」の二つが印象的。

両者ともに市井に生きる女性を視点人物に据えており、前者は幼馴染の男二人の間で揺れる若い娘の微妙な心情を、後者は亡夫の遺した連 れ子を育てる強き母の性根を、しみじみとした筆致で描く。ケレン味のない筋書きと余韻のある結末で、読者の「腑に落ちる」ツボを巧みに付いてくる作者の腕前 が、特に巧みに感じられる作品だった。

表題作は江戸時代初期に庄内藩で起きた史実のお家騒動をテーマにしたもので、別の作品で別な切り口からも書かれているらしい。次はそちらを読んでみたいと思う。