モーツァルトを「造った」男─ケッヘルと同時代のウィーン (講談社現代新書)
- 作者: 小宮正安
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/03/18
- メディア: 新書
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モーツァルトの作品目録を作成したケッヘル。彼の生涯と事績を、ハプスブルク朝の社会・文化背景と照らし合わせ、仔細に追跡し考察した本。
ナポレオン戦争後のオーストリア政治史・文化史の概略としても、非常に分かりやすい。「ビーダーマイヤー」という概念が、ようやく理解できた。ハイドンや ベートーヴェン、シューベルトなどの著名な作曲家が同時代にどのような社会的立場にあり、それに対してバッハやモーツァルトがどのような意図をもって「発見」されたのか、という辺りも、とても興味深い。
しかし焦点は、やはりケッヘルという人物の生涯と事績について、である。要約すると、 ケッヘルが連なる「ディレッタント」という存在の果たした役割と限界が語られている。筆者の冷静ながらもケッヘルへの尊敬と共感を失わない書き方には非常に好感が持てる。
専門家の時代となって好事家への評価というものが下がったのは間違いない。しかしケッヘルの功績が失われることは無い、という事実によって、著者は過度の分業化への警鐘を鳴らしているのだ。とまで言うとオーバーかもしれない。
しかしかかる書物のおかげで、ケッヘルという人物が成し遂げたことが21世紀の日本にも伝わっているのだと思うと、感動してしまう。
タイトルがなぜ「創った」ではなく「造った」なのかということも含め、この著者の姿勢にはひたすら、敬服の念を覚える。もちろん、ケッヘルという人物にも。たいへん読み応えのある内容でした。