クリスピンの邦訳でまとまった本が出るのは、『大聖堂は大騒ぎ』以来なのかな。さらに短編集は初の刊行となり、誠に僥倖であります。
さて、内容だが、シリーズ名探偵ジャーヴァス・フェン教授もの 14編と非シリーズもの2編を含む16作品が掲載されている。どれも「奇妙な謎とその論理的解明」という本格ミステリの骨格を備えており、知的ゲームとし ての楽しみが十分に味わえる。
さらにフェン教授と周辺キャラのやり取りもユーモラスで、無味乾燥な謎解きに留まらせていないのも流石。
それでも個人的には、やはりクリスピンは長編向きの作家、というイメージが強まった本でした。テンポよい読みやすさにあっけなさを感じるという、何とも贅沢な感想なのですが……。
印象に残った話は、結びの一言が忘れ難い「ハンブルビーの苦悩」、音 楽ネタが光る「人生に涙あり」、フェン教授の立ち位置が独特な「小さな部屋」、如何にも英国ミステリという展開の「すばしこい茶色の狐」、意外な異色作 「デッドロック」といったあたり。
ちょっとクサしはしましたが、レベルの高い本格ミステリ短編集でした。