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とりあえずかいてみよう

読書とか映画とか音楽のことを書きます。書かない日もあります。でも書こうと思ってます。

不機嫌なのは誰か トッド・プリュザン『モーティマー夫人の不機嫌な世界地誌』

モーティマー夫人の不機嫌な世界地誌-可笑しな可笑しな万国ガイド

モーティマー夫人の不機嫌な世界地誌-可笑しな可笑しな万国ガイド

 

ファヴェル・リー・モーティマー夫人は、19世紀前半の英国の著名な児童文学作家であった。福音主義の敬虔なクリスチャンでもあった彼女は、生涯において 十代の頃に家族で訪れたパリとブリュッセル以外、異国の地を踏んだことは無かった。そんな彼女が、欧州全域はもとより、アジア、オセアニア南北アメリカ、そしてアフリカというまさに全世界の博物地誌を著し、当時の大ベストセラーとなってしまった。「どうしてそうなった」とツッコミたいのは山々だが、今 の世の中でもこんなことはざらにある。ともかく夫人のスルドイ舌鋒が読みどころ。 

いわく「イングランドは世界でいちばん幸福な国だ。何故って聖書がたくさんあるから」「フランスに王様はいない。最後の王様はイギリスに逃げ込んできたん だよ。イギリスは安全な国!」「スペインって国は「街道筋のいたるところに「かつてここで××という人が盗賊に殺された」という石碑があるんだよ!危険な国!!」「ロシアは世界でいちばん大きな国だけど、そこにあるのは雪と野生動物だけだよ。馬鹿なの?死ぬの?」こんな感じ(盛ってますけど)。ヨーロッパですらこれなので、他の地域は推して知るべし。

夫人に悪意があったというわけではなく、要は当時の英国人の感性―上の立場から相手を見下す善意―でいっぱいなのである。よく言われる、ヴィクトリア朝道 徳やキリスト教の偽善の体現なのだが、現代人が彼女を笑えるかというとそんなことはない。実体験に基づかないバーチャルな耳学問夜郎自大に陥っている 人々は、むしろ21世紀の社会こそ多くなっているはずだ。

そういう意味で、この本は現代社会を現す鏡ともいえる。でもまあ、そんな難しいこと考えずに読んだ方が楽しいでしょうけど。