とりあえずかいてみよう

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偉大なる「馬」に感謝を 本村凌二『馬の世界史』

馬の世界史 (中公文庫)

馬の世界史 (中公文庫)

 

特定の切り口から政治・軍事史、文化・技術史の総体を読み解こうとする本は、見地が新鮮である半面、読者もよほど注意して読まないと著者の恣意的な書き回 しに翻弄される恐れがある。しかしこの本は、「馬」を切り口にしながら、かなり中立的に論を進められていると感じた。ギリシア礼賛史観中華思想への対置 として、巧みに馬という切り口から文明論を開陳できていると思う。特にアケメネス朝ペルシアのダレイオス大王がスキタイ征伐で大敗北を喫し、その威信を回 復するために敢えて必要もないギリシア制服を企てた、という指摘には膝を打つ。 

また、もともと馬の神であったポセイドンがなぜ海神となったのか、また地中海世界を統一したローマにとっての馬の位置づけをめぐる考察などは面白い。半面、紙幅の関係であろうが、日本における馬の考察は物足りない。また、近代以降の馬とスポーツを論じた章も、いささか駆け足に過ぎる。これは著者が古代史 専攻の方であるが故なのだろうが、その辺が惜しい。ともあれ興味深く読めた一冊だった。